"MANTIS" 第11話 文:えいじー ――被害者の怒りは罪を背負った者の罰によって鎮められる。 たとえ、その罪が冤罪であろうとも。 プロンテラ王城、AM11:54。 中央に円卓を備えた会議室に、男の激昂が響く。 「MANTISが犯人であるという確証はあるのか!」 卓上に手をついて身を乗り出しながら、皇太子はグワイツ伯爵に向けて問う。 伯爵は少々呆れたように、目の前の書類をトントンと指差した。 「ですから…先程から申してます通り、アジトの室内で発見されたこの設計図が物証になります。 王城内のアルケミストに分析させたところ、現場のホムンクルスと材料や造形がほぼ一致しました。 彼女達が現場のホムンクルスを作っていた証拠としては充分ではございませんか?」 「そこが納得いかないのだ……意図的にテロを起こしたのならば、 わざわざ目に付く場所に証拠となるような書類を置いておくだろうか?」 「意図的ではなく偶然に…例えば、事故によってホムンクルスが脱走したとすれば、 証拠を隠し切れずに逃亡したと考えても不自然ではありますまい。 現在行っている取り調べが済めば、そのあたりの事情もわかる事でしょう」 「……待て、伯爵殿が取り調べを?何故そなたが?」 「容疑者の第一発見者として、裁判が行われるまでの容疑者の取り扱いは私に一任されているのです。 詳細は国王に確認していただけますかな?」 伯爵の言葉に口をつぐんだまま頷き、着席する皇太子。 そのまま沈黙が流れ、会議が正午を待たずに休憩に入る空気が漂い始めた時。 「――伯爵様、グワイツ伯爵様」 ノックの音と共に、扉の裏から兵士の声が聞こえた。 「入れ」 「失礼いたします……先程、MANTISマスターが犯行を自供致しました」 取り調べの調書を携えた兵士の言葉に、再び張り詰める空気。 皇太子の着席していた椅子が、ガタリと大きな音を鳴らした。 「――馬鹿な……!」 「お聞きの通りです、皇太子様。昼食後、早速裁判の手筈を整えましょう」 立ち上がる伯爵の言葉に耳を貸さず、皇太子は卓上で両拳を強く握り締める。 「彼女達がテロなどするはずがない……伯爵殿、一体どんな取り調べをさせた!」 「どんなと申しましても、兵士達には普通の取り調べを命じていますが?」 「信頼できん!取り調べと称し、拷問を行っているのではないのか!」 激昂する皇太子を見て、違う大臣が慌てながら間に入る。 「こ、皇太子様……伯爵殿は城内2階の空き部屋を取り調べ室とし、 そちらで規律に則った取り調べを行っております。私も様子を確認いたしました」 「む……そうか」 落ち着きを取り戻し着席する皇太子に対し、伯爵は溜め息をつきながら肩をすくめる。 「…お言葉ですが皇太子様、少々MANTISに肩入れし過ぎではありませんか? 国王も期待を寄せていたMANTISの裏切りにひどく落胆していると言うのに、 容疑者である彼女達を庇い私を責めるというのは、第三者から見ても酷く滑稽かと思われますが」 「……何だと?」 自分を見据える皇太子の視線に構わず、伯爵は言葉を続ける。 「聞けば剣術の指南役もMANTISの者だったらしいですが……情が移ったのではございませんか? 『組み手』に入れ込むのは結構ですが、公私混同なされる事のないようお願い致しますぞ」 そう言いながら立ち去る伯爵の後に続き、他の大臣達も失笑を漏らしながら退室する。 侮辱の言葉にも何も言い返せず、一人室内に取り残される皇太子。 「皇騎士殿…本当に、そなた達が……?」 真紅の絨毯の上、皇太子はMANTISの安否を、 そして二日前の指南に現れなかった皇騎士の安否を案じ天井を見上げた。 ・ 伯爵達への報告を終えた兵士は来た道を引き返し、2階ではなく地下へと向かう。 地下牢獄の再奥、他の囚人達には物音の届かない一室。 防具の金具を緩めながら、兵士は厳重に閉じられた扉を開く。 「報告して来たぞ」 「おう、ご苦労さん」 室内にいた男は、一人の女性に一物を咥えさせながら顔を上げる。 「…ぅ……ぐ……」 憔悴しきった様子で男の股間に頭を埋める女性。 彼女こそが、先日捕らえられたプリーストであった。 一日前。 PARASITEより彼女を引き渡されたグワイツ伯爵は、2階の取り調べ室に偽者の容疑者役の女性を配置し、 他の上層部に気付かれぬように彼女をこの部屋まで連行した。 そして直属の兵士達に彼女の手足を押さえさせると、衣服を無理やり脱がし、犯した。 『女は大人しく男に奉仕していればいいものを…でしゃばるからこういう目にあうのだよ』 恨み言や侮辱の言葉を吐きながら肉棒を叩きつける伯爵に対し、無抵抗・無反応で耐える彼女。 その態度が、伯爵の機嫌をさらに損ねたらしい。 『――方法は問わん、好きなように尋問して罪を自供させろ』 膣内で達し欲望を吐き出した後、兵士達に命令して立ち去る伯爵。 法衣や下着がずらされ内股を白濁が伝う彼女の姿に、男達の劣情が掻き立てられぬはずがない。 男達は抵抗する彼女を数の力で制し、文字通り好きなように弄んだ。 天井に吊るして鞭で打ちつけ、足枷を着けさせた状態で逆三角形の土台に跨らせる。 道具を使った拷問を一通り終えると、男達は順番に彼女を犯し続けた。 逃げられぬよう左足首を長めの鎖で繋がれたまま、 丸一日、様々な体位で、あらゆる穴に肉棒を挿し込まれ、精液を注ぎ込まれた彼女。 法衣は服としての意味を成さない程ボロボロに引き裂かれ、 ただの布切れとなった下着がまとわりつく蜜壷からは、何十回分もの陵辱の証がぽたぽたと溢れ出している。 そして無理な挿入によるものか、尻の穴から滲み出す白濁には彼女の血液も混ざっていた。 「他の奴らはもう戻ったのか?」 「お前が報告に行ったすぐ後に帰っちまった。疲れたから寝るってよ」 「全く、これからがお楽しみだってのによ…まあいい、俺らだけで楽しもうぜ」 言いながら防具を外す兵士に、プリーストの身体がびくりと震える。 「…ふぐ……っ!んぅ……!」 「ん、どうした」 「ぷは…ぁ……、罪は認めたわ……だから、もう――っんむぅ!」 彼女の言葉を制すように、肉棒を咥えさせていた男は頭を押さえつける。 「まだ伯爵から終了の命令が下ってないからな。それまでは取り調べを続ける必要がある」 「んぅっ、ん……っ!!――んーっ、んんーっ!!」 喉奥まで肉棒を挿し込まれていた彼女の表情が、涙を滲ませながら苦悶の色に歪む。 男は彼女の頭を撫でながら下腹部をビクビクと震わせ、何度目かもわからぬ射精の快楽に酔いしれる。 「か、はぁっ!……げほっ、けほ……っ!」 「よーし、それじゃ今度は俺の番だな」 「…や、嫌……ぁっ!」 弱々しく逃亡の挙動を見せた彼女の身体を、口内で達した男が後ろから抱きかかえる。 そしてそのまま立ち上がると、彼女を羽交い締めにしてもう一人の男の前に立たせた。 男は彼女の肢体を見ながら防具と衣服を全て取り去り、にやつきながら彼女に近づいていく。 「さあ、他に知っている事を言わなければ…わかってるな?」 「……嫌…もう、何も、知らない……っ!」 当然、男達は察している。 察した上で、尋問を楽しんでいる。 「そうか。ならばもう一度身体に聞いてみるとしよう」 「やっ、やぁ……っ!お願い、ゆるして……っあぁぅ!!」 じたばたと暴れる両脚を掴み、M字型に抱え上げ。 ぱくりと開かれた白濁まみれの蜜壷に、男は張り詰めた怒張を根元まで一気に挿し込んだ。 「ぁ……や…ぁ……」 「へへ、いい顔してるじゃねぇか。締め付けもまだまだ最高だ、ぜ!」 「――ぅああっ!」 太股を抱えながら腰を前後させる男に対し、乾いた嬌声を漏らすプリースト。 寝る事も許されず犯され続けた結果、彼女の喉は渇ききり、涙も枯れていた。 「にしても、随分可愛い声で鳴くもんだな。前に城内で見かけた時はもっと気丈に見えたんだが」 「馬っ鹿、女なんて裸にして何度か突っ込めばこんなもんだ」 「そんなもんかねぇ。……おっ、出る、出る……っ」 「……っ、い、嫌……っ!」 身体を強張らせる彼女に構わず、男は陰茎を挿し込んだ腰の動きを速める。 やがて短く呻き声を上げると、根元まで収めたところで腰をビクリと震わせた。 「――っ!?…やあぁ……っ」 「おいおい、もう出しちまったのかよ…早過ぎじゃねぇか?」 「昨日は取り調べの調書を書いてたから、お前や他の奴と違って全然ヤれなかったんだよ。 まだ出し足りねぇし、このままもっかいハメていいか?」 「あぁ、そう言う事なら仕方ねぇな。溜まってる分全部出し切ったら代わってくれや」 その言葉に男はニヤつきながら頷き、陰茎を挿し込んだまま腰の動きを再開させる。 萎えかけていた陰茎は数度の抽挿によってすぐに固さを取り戻し、膣内の柔壁を再び押し広げていく。 「…ぁ、あぁ……っ、ぁ……」 休む間もなく犯されるプリーストは、虚ろな表情のまま身体をかくかくと揺らす事しかできなかった。 裁判の日取りが決まった後も、彼女は味を占めて訪れる兵士達に犯され続けた。 そして裁判ではボロボロになった身体を傍聴者に晒すのみで、満足に弁解を行う事も出来ぬまま終わる。 ――仮に弁解を行えたとしても、自白と証拠が揃っている状況を覆すことは不可能であっただろう。 かくして裁判の結果、プリーストの処刑が2日後に執行される事が決まった。 ・ 『本日午後2時、ヴァルキリーレルム中央広場にて城下町襲撃事件の首謀者の処刑を行う』 プロンテラの街中に掲示された公示を見て集った群衆が、砦内に攻城戦の時をも凌ぐ賑わいを生み出す。 砦の中央には処刑台が設置されており、処刑台の側には牧師や裁判の陪審員、 そしてグワイツ伯爵を始めとする王国上層部の者達が既に控えている。 受刑者を待つ群衆の中にはウィザードや商人、アサシンクロスの姿もあった。 「ウィズっち……やっぱり、首謀者ってマスターの事なのかな?」 「マスターが捕まったってのは単なる噂よ。マスターがそう簡単に捕まるはずないわ」 二人の会話を掻き消すように、群集からどよめきが起きる。 砦の中央に設置された壇上に処刑執行人の姿が現れたのだ。 「これより、プロンテラ城下町の襲撃事件における首謀者の公開処刑を執り行う」 執行人の合図に合わせ、覆面をつけた大男に連れられた首謀者が姿を現す。 その見覚えのある顔に、そして変わり果てた姿にウィザード達は絶句した。 「…うそ……」 男の誘導に対し抵抗を見せない――否、抵抗する気力を持たないプリースト。 質素な囚人服に身を包んだ彼女は、壇上に備え付けられた断頭台に頭と両手首を固定される。 「……ぅ……」 枷に頭と両手を拘束され、暴れることもなく表情を沈める彼女。 その姿に、群集から罵声が飛び交う。 「弟を返せ、この人殺し!」 「なんでお前のテロの犠牲者はリザで生き返らねぇんだよ……!」 「化け物に犯されたせいで娘が変になっちまった……どうしてくれるんだ!」 「あんだけ人を殺したんだ、お前なんて一度死んだくらいじゃ許されねぇよ!」 数日間侵され続けた今のプリーストには、弁解も謝罪も行う力が残されていない。 ただ、彼らの怒号を一身に受ける事しかできない。 処刑の執行を前にして暴動を起こしかねない様子の群集。 彼らを鎮めようと、上層部の席から一人の男が立ち上がる。 「皆様、お静まりください」 片手をすっと挙げながら、男は低く通る声で言い放った。 「今回の処刑の責任者であるグワイツと申します。どうかお静まりください」 その声に気付いた群集が喧騒を緩めたのを見計らい、グワイツ伯爵は言葉を続ける。 「皆様もお怒りの通り、この者は近年の歴史上類を見ない凶悪な犯罪を引き起こしました。 特にテロの実行犯に暴行を受けた女性は心に重大な傷を残す結果となり、 その罪は死罪によってもなお償えぬものであると考えております」 伯爵の演説を受け、次第に群集の喧騒が静まっていく。 「そこで私から提案ですが――」 そこまで言い終え、いったん間を置く伯爵。 静寂の流れる処刑台に、小鳥のさえずりが響く。 「皆様の前で、この者にも被害者の女性達と同じ暴行を受けていただきましょう」 伯爵の言葉が響いた瞬間、空気を揺るがす程の多大な歓声と喝采が巻き起こる。 「――!?」 自分への宣告が信じられず、閉じかけていた瞳を小さく見開くプリースト。 「……はぁ!?」 強い非難と呆れの声を挙げるウィザード。 彼女や商人だけでなく、一部の群集の中にも抗議の意を示そうとする者はいた。 しかしウィザード達は潜伏しているという立場上、声を大にして異議を唱える事はできず、 他の者も狂気と狂喜に渦巻く群集達を敵に回してまで処刑者の肩を担ぐ事はできない。 伯爵の提案に対し決定的な非難が出ないまま、私刑は執行される。 「やれ」 片手を挙げて群集の喝采に応えた後、執行人に命令する伯爵。 執行人は僅かに眉をひそめながら、覆面の男に行為を促す。 断頭台の刃を支えるロープの側にいた男は、ロープを切る斧を置きプリーストのもとへと近づいた。 「…ゃ……」 首にはめられた枷に阻まれ、プリーストは後ろの様子を見る事ができない。 ただ、近づく足音から事態の切迫を感じる事しか叶わない。 「――ゃあぁっ!」 衣服の掴まれる感触、そして衣服の裂かれる音。 湧き上がる群集の姿が目に映り、露になった胸や尻にひんやりとした風が当たる。 「…ぁ……やだ……」 下着の両端に手をかけられる感触、そして膝のあたりまでずり下ろされる感触。 歓声は更に大きくなり、男は無言のまま腰を強く掴む。 「やだ、やめ……っぁあああ――っ!!」 濡れてもいない秘所に熱をもった突起物をあてがわれ――そのまま、強引に挿し込まれる感触が彼女を襲う。 男は反応や具合を確かめながら入り口付近で数度抜き挿し、そして根元まで一気に肉棒を収めた。 「…ぅ……うぅ……っ!」 抵抗もできぬまま貫かれ、弱々しく漏れる声は最高潮を迎えた群集の歓声に掻き消される。 男は根元まで収めたところで腰の動きを止め、右手を結合部へ、左手を乳房へと伸ばした。 「や、あぁっ!」 左胸の先端を摘み上げられ、剛直に割り開かれた秘肉を撫で回される感触にプリーストの腰がビクリと震える。 震えは全身へと伝染するが、枷に押さえつけられた首と両手はガクガクとした不自然な震えへと変化する。 両手を握りしめ顔を紅潮させる彼女を見て、群集の熱は更に高まっていった。 「おい、感じさせてどうするんだよ」 「処刑なんだろ、もっと激しくやれよ!」 野次を飛ばしながら壇上の痴態に見入る群集。 その下卑た視線に晒され、プリーストは視線を合わせまいと顔を伏せる……が。 「――やあぁっ!!」 膣内に突如叩きつけられる衝撃に、自由の利かない頭が跳ね上がる。 群集の野次を受け、愛撫を楽しんでいた男が一転して激しく抽挿を始めたのである。 身体を固定させられている為、腰を引く事で挿し込まれる衝撃を和らげる事はできず、 そして男の逸物は獄中で犯されたどの兵士のモノよりも硬く、大きい。 「ぅ!ぁく……っ、ああぅっ!!」 容赦ない抽挿の衝撃をまともに受け続け、もはや自分で体重を支える体力も奪われたまま、 断頭台の枷と男の両腕によって無理矢理立たされた状態で犯されるプリースト。 見渡せば、何十何百もの群集の視線。 見られている。 隠す術もなく、見られている。 苦痛と快楽に歪む表情を。 衣服を取り去られ全裸で犯される全身を。 男の動きに合わせたぷたぷと揺れる乳房や、その先端で張り詰めた乳首を。 陰茎が突き入れられるたび、水音と共に淫らな液体を弾けさせる結合部を。 本来、誰の目にも届かぬ密室で愛し合う男女が行う行為を。 障壁の存在しない屋外で、会った事もない男に無理やりさせられているのを。 下卑た野次を飛ばす男達に見られている。 「…ぅあ……っ、ゃ……だ……ぁっ!」 本能的な嫌悪感と肉体的な苦痛に身をよじらせるプリーストだが、 その行為と呻き声はすべからく群集の昂揚を助長し、男の腰の動きを速める事となる。 息を荒げながら腰を動かす男の指が、より強くプリーストの腰を掴む。 その感触と速くなる抽挿に男の絶頂が近い事を察するプリーストだが、 この状況下で膣内射精を拒む事の無意味さも同時に悟る。 その瞬間、彼女は諦めた。 抵抗を諦め、この状況からの脱出の望みも諦め。 瞳を閉じ、かくりと首を傾け、全身の力も抜いて。 背後から貫かれる苦痛と、意に反して湧き上がる歪んだ快楽に身を任せた。 そんな彼女の失望など構わず、一心に腰を動かし続ける男。 速さのピークを迎えたその動きが一瞬止まり、大きく不規則に前後する。 そして根元まで一気に挿し込んだところで、男はその巨体に溜め込まれた精液を一気に放出した。 「――っ、ひゃ、あぁぁ……っ!!」 膣内に隙間なく挿し込まれた巨根が激しく蠢き、子宮の奥に粘液を撒き散らす。 間も無く自分の命が断たれる事を理解していても、プリーストは大量の精子が自分の子宮内に張り付き、 望まぬ命を生み出そうとする感触に身震いせずにいられない。 「…はぁ……ぁ……」 結合部から溢れ内股を伝う白濁の感触を感じながら、プリーストは潤んだ瞳をゆらゆらと泳がせた。 ・ ぶるり、ぶるりと身体を痙攣させた後、ゆっくりと白濁にまみれた怒張を引き抜く男。 既に体力の尽きているプリーストは、男に腰を掴まれていた手を離され、体勢を保つ事もできずに崩れ落ちる。 意識を無くしかけた表情や蜜壷から零れ落ちる精液を見て、群集の歓声が狂喜に染まった。 「――なに、何なのよこれは……っ!!」 小さく、しかし激しく怒り、ウィザードは拳を握り締め身を震わせた。 「このままマスターが殺される……?冗談でしょ!?アサ子、何とか助けられないの!?」 視線をアサシンクロスに移し小声でまくし立てるウィザード。 私刑を無表情で眺めていた彼女は首を振り、無表情のまま答える。 「私が出来るのは殺す事であって助ける事ではない。あの場にいる全員を殺す事は可能だが、 恐らく断頭台からあいつを解放する前に処刑は強行されるだろう」 「んなの、やってみなきゃわからないじゃない!あたしも協力するから!」 「ウィズっち、駄目だよ……王城のど真ん中で王国軍に3人で刃向かうなんて、 どう考えても全員無事に脱出なんてできないよ……」 「じゃあ、このままマスターを見殺しにしろって言うの!?」 「そんな事ない!…助けたいけど…助けたいけど……っ!」 絶望的な状況に押しつぶされ、商人はぼろぼろと涙をこぼす。 その様子に口をつぐみ、再び処刑台へと視線を移すウィザード。 「……っ!」 事態は、既に切迫していた。 服を着終えた覆面の男が再びロープの元に戻り、執行人の方を見て指示を待っている。 プリーストの首を狙い、真上で鈍い光を放つ断頭台の刃。 その刃を支えるロープが切られプリーストの命を断つ瞬間を、群集達はざわめきながら待ち続けていた。 「マスター…マスター……っ!」 処刑台を直視できず、屈み込んで泣きじゃくる商人。 そんな彼女を落ち着かせる余裕も持てず、ウィザードは焦燥し切った表情で処刑台を見つめる。 ――そして、その瞬間は訪れた。 伯爵の目配せを受け、覆面の男に向けて手を上げる執行人。 合図を受けた男は斧を大きく振りかぶり、ロープに向けて一直線に振り下ろす。 勢い良く切り離され、跳ね上がるロープ。 支えを失い、自重によって急降下する刃。 その刃が、ぐったりとしたプリーストの首へと落ち―― 「――――」 言葉にならない叫び。 辺りはモノトーンの世界となり、張り裂けんばかりの群集の喝采はミュートとなって。 断頭台から吹き飛んだ小さく黒いシルエットが、ウィザードの視界に映し出された。 |